「歌手のスキャットをマネしてみたけど、思ってるように歌えない」
「スキャットの歌い方や練習方法があるなら知りたい」
そんな悩みを解決できる記事を用意しました。
即興なのに、スキャットをのびのびと歌い上げるアーティストを見ると「感覚で歌えそう」と、思いますよね。しかし、スキャットにも王道なフレーズやリズムなど、綺麗に歌うための練習方法が存在します。
今回の記事では、スキャットの概要や、具体的なトレーニングの方法、実際に楽曲に取り入れている歌手8名を紹介しているので、ぜひ歌唱力アップの参考にしてみてください。
スキャットとは
スキャットとは、主にジャズで使われる歌唱法で、メロディーに合わせて「シュビドゥバ」「ダバダバ」など意味のない歌詞をアドリブで歌う表現法の一つです。
一般的に歌を歌うときは、カラオケの文字の色が変わっていくように、歌詞を追って歌います。しかし、スキャットの場合は歌詞を追わず、声を楽器のオノマトペのように発声し、音色・ピッチ・リズムを、即興で思いきり楽しむことが醍醐味とされています。
日本の曲でパッと思い浮かぶものだと、テレビ番組『徹子の部屋』のオープニングで流れる「ル〜ルル、ルルル、ル〜ルル」や、ネスカフェゴールドブレンドのCMでお馴染みの「ダバダ〜バ、ダバダ〜ダバダ〜」が有名ですね。
スキャットでは、よく使われるフレーズはあるものの、明確に「この単語を入れるとスキャットになる」という定義はありません。
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スキャットの種類
スキャットには種類がたくさんあり、それぞれ曲によって似合うフレーズを選択する必要があります。代表的なフレーズは以下の6つです。
- アー(ah)
「アー」は、音の主張が強いため、サビやクライマックスなど、一番盛り上げたい箇所に使用します。
- ウー(uh、woo、oo)
「ウー」は、音としては主張が控えめです。ハーモニーしやすいスキャットで、ポップスやバックコーラスにも多用されています。
- オー(oh)
「アー」と同じく、盛り上げたい箇所に使います。音の区別をしやすくするため、「ウー→オー→アー」の順番で使われることが多いです。
- ウォー・ウォウ(woh・wow)
「ウォー」や「ウォウ」は、瞬間的に盛り上げる箇所などで使います。
- フゥー(fu・whoo)
「ウー」と似ています。息を多めに発音することで、フレーズに色っぽさを加えることができます。
- トゥー(tu・too)
「トゥー」ははっきりした音になるため、輪郭のあるフレーズがほしいときに使います。
さらに強調させたいときは「ドゥー」を使うこともあります。
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スキャットの練習方法
スキャットは即興で自由に歌う歌唱法ですが、楽器と同様に、音の正確さがあってこそ魅力を発揮します。具体的には、以下の3つがポイントとなります。
- リズムを入れる
- ピッチを合わせる
- 歌いたい曲をよく聞く
この章では、スキャットを魅力的に歌うためのボトムとなる「発音」「リズム」「ピッチ」を身につける方法をご紹介します。
動画では、ジャズ・ボサノバシンガーのEMiKOさんのトレーニング方法をご紹介し、URLの下には、動画内の内容をテキストにしたものを、まとめています。
動画内には、メトロノームを利用した方法・曲の特定の音階に合わせてスキャットを入れる練習方法があるため、一度映像で学んだあと、テキストを利用して何度も実践してみるのがおすすめです。
発音
まずスキャットを歌う前に、母音の位置を明確にすることで「音のつながりがよくなる」「クリアな発音になる」といった、よりよくスキャットを美しく表現するためのメリットがあるため、解説します。
母音とは「あ・い・う・え・お」の5つの言葉をさし、それ以外は、子音と呼びます。
母音の位置はある程度決まっており、歌に適しているのは西洋的な発音といわれています。上記の図では、西洋的な発音で「母音を発音する位置」「息の流れ」の2つのポイントが書いてあります。図を見比べながら、実際に発音してみましょう。
- 「い」
日本語の「い」は口を横に開きますが、口を縦に開き、「い」と発音します。
- 「え」
「い」と同様、口を縦に発音します。
- 「あ」
上顎の軟口蓋(なんこうがい)を高くあげて発音します。軟口蓋は、喉の柔らかくなっている場所です。
- 「お」
「あ」の口の形のまま、少し下の位置で発音します。
- 「う」
日本語の「う」は口をすぼめて唇の裏で発音しますが、ここでは下の歯の裏側を目掛けて発音します。
「い・え・あ・お・う」で、それぞれの発音する位置と、「いーえーあーおーうー」とつなげたとき、息の流れが口の中でぐるっと回る感覚は掴めたでしょうか?
鳴らしやすい場所は人によって異なるため、この図をベースに自分の発音しやすい母音の位置を掴んでみてください。
リズム①
ボサノバのスキャットの基本である二拍子のリズムを、実際に体を動かしながら、体に落とし込んでいくレッスンです。
曲かメトロノームに合わせて「1、2、1、2」とリズムを刻んで体を動かす
↓
膝を曲げ伸ばししながら「1、2、1、2」のリズムで屈伸運動をする
リズム②
メトロノームを使い、音の取り方・曲へのアプローチの方法を学べます。
メトロノーム60を鳴らす
↓
全音符で「da–(ダー)」を4回
↓
二部音符で「da–ba–(ダーバー)」を4回
↓
四分音符で「da–ba(ダーバ)」を8回
↓
八分音符で「da–ba(ダーバ)」を16回
↓
八分音符で「du-ba(ドゥーバ)」を16回
↓
三連符で「da b da(ダッブダ)」を16回
↓
三連符で「du e ya(ドゥイヤ)」を16回
↓
実際のジャズミュージックを流して、順番に発音してみる
↓
実際のジャズミュージックを流しながら、自由に上記のスキャットを取り入れてみる
ピッチ
初心者の方がスキャットするのに最適な「Fly Me to the Moon」の曲に合わせて、ルート音・コードトーンでスキャットを歌うレッスンです。
コード音とは、「ドミソ」「ミソシレ」など、コードの組み合わせに割り振られているコードネームで、ルート音は、その組み合わせの中の一番下の音を指します。
曲に合わせたピッチを身につけていきましょう。
「du-la(ドゥーラ)」をルート音で歌う
↓
「du-i-ya(ドゥイヤ)」をルート音で歌う
↓
「du–ba du–da(ドゥバドゥダ)」「du–bu du–la(ドゥブドゥラ)」をコード音で歌う
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スキャットの綺麗な歌手
日本国内外問わず、楽曲にスキャットを取り入れている歌手はたくさんいます。
この章では、スキャットを楽曲に取り入れている、個性あふれるアーティスト8名を抜粋してご紹介しますので、歌いたい曲選びの参考にしてみてください。
男性歌手
ルイ・アームストロング
スキャットの生みの親といわれているルイ・アームストロングは、アメリカ合衆国のジャズミュージシャン・トランペッター。「ジャズ界の巨匠」と称されていました。
ルイ・アームストロングが、収録をしている最中に歌詞を忘れ、とっさのアドリブで適当な言葉で歌ったNGテイクがスタッフに大ウケしたことをきっかけに、スキャットが誕生したといわれています。
曲の半ばで遊び心いっぱいにスキャットを入れていますね。
スキャットマン・ジョン
スキャットマン・ジョンは、スキャットの中でも、「テクノスキャット」という新しいジャンルを開拓した、アメリカ合衆国のミュージシャンです。連続的な音を奏でる珍しい歌唱法で、人気を博しました。
元々、スキャットマン・ジョンは「吃音症(きつおんしょう)」という発話障害をもっていました。吃音症とは、言葉の出だしが「あ、あ、あのね」とつまづいてしまったり、「……あの!」と、すぐに発音できず間があいてしまうなど、吃ってしまうことで、なめらかに話すことが困難とされている症状です。
このコンプレックスの吃りを逆手にとり、楽曲に反映させ、独特のジャンル「テクノスキャット」を開拓しました。
歌手としては遅咲きで、52歳でCDデビューを果たし、1995年にリリースしたファーストアルバム「スキャットマンズ ワールド」で、全世界600万枚以上の記録を残します。
「スキャットマン」
始まりから超高速スキャット。スピーディな歌声が、電子音とマッチしていてかっこいいです。
藤井 風
J-POPでスキャットといえば藤井風さん。日本人の若手シンガーソングライターです。
幼少期から、ピアノやジャズ、演歌など幅広い楽曲に触れて育ちました。父親の影響で、実家の喫茶店でピアノを演奏した動画をYouTubeにアップし、「千本桜を中学生がピアノで弾いてみたら・・・」などの発信がきっかけで、音楽業界から注目を集め、ミュージシャンとしてデビューを果たしました。
2021年には、全国のアリーナ公演を実施。最終公演は有料ストリーミングサービスにて、全世界へオンライン配信がされました。
「何なんw」
4:12の大サビに向かう前で、巻き舌から入るリズミカルなスキャットを使っています。スキャットの前後が日本語なので、英語が苦手な方も、4:00〜4:20あたりを繰り返し練習で使ってみるのもいいですね。
人間椅子
ロックのスキャットのサンプルとしては、人間椅子。
は、怪奇系の曲を歌う日本の3人組のロックバンドで、メンバーの2人が青森県弘前市生まれであることから、日本語・津軽弁の両方で歌詞が構成されています。
1990年の「人間失格」でメジャーデビュー。
独特の音楽性が評価され、ヨーロッパワンマンツアーや、全国ロードショー映画「いとみち」の挿入歌に楽曲が使用されるなど、現役で活躍をされています。
「無情のスキャット」
2:08〜2:20のサビの部分は、ロックバージョンのスキャットですね。力強く叫ぶような歌声がかっこいいです。4:49も、一般的に「ルルル」と聞くと愉快な歌のイメージですが、地を這うようなヘビーなトーンで歌われています。
女性歌手
サラボーン
ジャズで有名なスキャット歌手といえば、サラボーン。
アメリカ合衆国のジャズ三代ボーカリストの1人として名を残すサラボーンは、3オクターブ以上の広い音域と思いきりのあるパフォーマンスで観客を魅了したといわれています。
父親はアマチュアミュージシャン、母親は聖歌隊という音楽一家のもとで生まれ、自身も12歳の頃にはオルガンを弾き始め、1942年にアポロ・シアターで行われたアマチュア・ナイトで優勝したことをきっかけに本格的なジャズシンガーとしての活動を始めます。
1947年の「It’s Magic」が初めてのヒット曲。
1982年に発売した「ガーシュウィン・ライヴ!」は、第25回グラミー賞で最優秀女性ジャズ・ボーカル・パフォーマンス賞を獲得し、自身初のグラミー受賞を果たしました。
1990年に肺がんでこの世を去ってしまいましたが、現在も歴史的なジャズボーカリストとして名が残っています。
「枯葉」
アップテンポなジャズミュージックをバックに、一曲丸ごとはじけたスキャットで歌いきっています。力強いハスキーボイスで、ピッチやリズムを楽しんでいますね。
シリル・エイメー
「楽器を模倣する」といった表現にふさわしいスキャットの達人のシリルエイメーは、ニューヨークタイムズでも絶賛された、フランスの女性ジャズボーカリスト。
フランス人の父と、ドミニカ人の母の元に生まれました。両親の故郷の影響で、「フレンチ・ジプシー・ミュージック」と「ドミニカン・リズム」を融合させた、ポップで独特のスタイルが人気の秘訣となりました。
2007年に「モントルー・ジャズ・フェスティバル・コンペティション」に出場し、優勝。2013年に行われた、第1回「サラ・ヴォーン・インターナショナル・ジャズ・ ヴォーカル・コンペティション」でも優勝を果たしました。
現在は、アメリカ合衆国を拠点に活動し、楽曲をリリースし続けています。
「I Mean You / You Know Who」
最初の20秒の時点で、「楽器のように歌う」が表現されていますね。楽器とのハーモニーが抜群です。
Me & My
ユーロダンスのジャンルで、スキャットを使うMe & Myは、デンマーク出身の姉妹ユニットです。
1995年にデビューを果たし、シングル「Dub-I-Dub」は世界中で100万枚を売り上げ、その後リリースしたアルバム「Me&My」は、200万枚以上を売り上げるメガヒットを記録しました。
1999年には、コナミ提供の音楽ゲーム「ダンスダンスレボリューション」の曲リストにも抜擢され、ゲームセンターやプレステを通じ、さらに日本での知名度を伸ばしていきました。
「Dub-I-Dub」
サビの9割がスキャットです。ポップでノリノリな「ドゥッピ ドゥッピ ドゥピ ドゥップップ」は思わず口ずさんでしまうほどキャッチーなフレーズですね。
伊集加代
コーラスで有名なスキャット歌手といえば、アルプスの少女ハイジのオープニング「おしえて」でお馴染みの伊集加代さん。日本トップのコーラスシンガーです。
短大時代にはクラシックを学び、ポピュラー音楽を好きになったことをきっかけに、卒業後は、日本のジャズボーカリストの水島早苗さんの元へ弟子入りをしました。
1965年以降は、「フォー・シンガーズ」「シンガーズ・スリー」など、コーラスグループのメンバーとして活動を開始。圧倒的な歌唱力を評価され、ソロとしてもオファーが絶えない日々が続きました。2022年の時点で、録音してきた曲は、CMやドラマ主題歌などなんと累計1万曲以上。
「スキャットの女王」の愛称で親しまれ、84歳の現在も現役でシンガーとして活動をされています。
「めざめ」
楽器のメロディを立てるように歌われています。2:19の曲クライマックスは、「繊細でありながら芯のある声」が特に表現されていて魅力的ですね。