ミックスボイスの出し方/練習方法

ミックスボイスの出し方/練習方法

ミックスボイスという言葉。歌うことに興味を持ち始めた途端、頻繁に耳にしませんか?

「あの曲を上手く歌いたい」「高い声を出したい」と思った時、歌・上手くなる・練習方法などのキーワードで検索すると、ボイトレ・ボーカルと並んでよく出てくるのが、このミックスボイスでしょう。

上手く歌うための必須アイテムみたいに扱われるミックスボイス。ちょっと気になりますよね。
そこで今回は、ミックスボイスの出し方や練習方法をできるだけわかりやすく解説していきます。

ミックスボイスとは

ミックスボイスとは簡潔にいうと、地声(チェストボイス)と裏声(ファルセットもしくはヘッドボイス)を混ぜ合わせた中間の声。別名ミドルボイスとも呼ばれます。地声→ミックスボイス→裏声とくっきりわかれるわけではなく、下記の図のようにグラデーションを描いて変化していくイメージです。


<ミックスボイスのイメージ図>


ミックスボイスを自在に使えるようにするには、まず地声と裏声を正しく認識して発声できることが大切です。ただ、人によって声質が違うので、実際にどんな声なのかというイメージを伝えるのはなかなか難しいのが現状。そこで今回はざっくりと、地声はドラえもん、裏声はミッキーマウスみたいな声とイメージしておいてください。

声帯は粘膜、声帯靭帯、筋肉層から成り立つ2枚のヒダがV字型になっています。地声・裏声・ミックスボイスそれぞれで声帯の状態は下記のような感じになります。


地声…息の圧力によって声帯がしっかり閉じて完全閉鎖の状態になり、粘膜・筋肉ともに振動

裏声…声帯の閉鎖は一部のみ。筋肉は脱力し粘膜部分だけが振動

ミックスボイス…粘膜・筋肉の接触・閉鎖が0⇒100ではなく、出したい音程や音質によって変化します。強い芯のある裏声は声帯靭帯まで接触

ミックスボイスの声帯のバランスによってはこんな風な画像で示されることもあります。

少し詳しく説明すると、声帯には次の3つの状態があります。

  1. 振動部分(合わさっている部分)
  2. 閉鎖部分(完全に閉じている部分)
  3. 開放部分(息が漏れている部分)

このうち、振動部分が音域を決定(弦楽器と一緒)して、閉鎖部分と開放部分で息漏れの量(裏声っぽさ)を決めるので、地声ミックス/裏声ミックスというような分類がよくされますが

地声ミックス: 振動部分以外はシッカリ閉鎖で息漏れが無い
裏声ミックス: 振動部分以外からある程度の息漏れが有る

というような違いになるわけです。そのため、どちらを出すにしても、声帯閉鎖をコントロールするテクニックが必要不可欠となります。

そして、ミックスボイスは地声と裏声が混ざった声ではなく、自ら混ぜ合わせた声というのがポイント。音域や出したい声のイメージに合わせて、地声の成分と裏声の成分を絶妙な割合で混ぜることで生みだされる、変幻自在の声なのです。

カフェオレがコーヒーとミルクの割合で、ビターにもミルキーにも味わいを変えられるように、ミックスボイスはハードにもソフトにも音色を変えられます。地声の成分が多めの硬い響きから、裏声の成分が多めの柔らかな響きまで、さまざまなミックスボイスが生み出せるのです。

パワフルな曲なら地声多めの鋭いミックスボイス、やさしいバラードなら裏声多めの柔らかなミックスボイスなど使い分けることができれば、その曲のイメージにあった歌声で歌うことができます。低音域から高音域まで、ひっくり返ることなく、苦しそうに聞こえることなく、自分の思うまま思い切り歌うことが可能となるでしょう。

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ミックスボイスの練習方法

インターネットでミックスボイスの出し方と検索すると、数えきれないほどの動画やブログ、書籍が出てきます。そして、そのどれもが同じ定義で説明されているかというと、実は、そうではありません。ミックスボイスとはどういうものかを前項でお伝えしましたが、ボイストレーナーによってとらえ方がまちまち。理由は、説明したようなグラデーションの幅が広いことが一つの原因でしょう。

でも、大切なのは、定義にとらわれず目的に応じて自分に合った方法でトレーニングすること。人ごとに声帯や、声帯をコントロールするための筋肉、その状態や使われ方が違うためにまずは自分の状態を把握し必要なトレーニングを理解することから始めましょう。もとから地声で高音が出る人は地声を出している感覚で、地声が柔らかく裏声との差があまりない人は裏声のつもりで、などミックスボイスを出している時に体で感じる感覚もさまざまなので、感覚や人の話にとらわれず、あくまで客観的に現在位置をとらえることが大事です。

そのためのヒントとして、ここでは実際にミックスボイスの練習方法について、違った視点から説明している3タイプのyoutuberさんとその動画をご紹介します。

ミックスボイス独学のために必要な判断基準とは

しらスタ【歌唱力向上委員会】のおしらさん
チャンネル登録者数100万人超えのボイトレ YouTuberであり、某スクールで特別講師を務める現役ボイストレーナー。誰にでもイメージしやすい感覚をわかりやすい言葉で伝えてくれるので、万人向けといえます。

こちらの動画は、ミックスボイスを独学で練習する時に必要なのは出し方ではなく、正しくできているかの判断基準を持つことという観点からのお話。ミックスボイス合格判定5つの基準を以下のように提示し、よい見本と悪い見本どちらも実際の声で再現されています。

1.どの母音でも一定にミックスボイスが出せるか
2.自分が出したい音色が出せているか
3.その声で5曲連続歌っても、最後までダメージなく歌えるか
4.音量を一定に出せるか、特に小さく出せるか
5.地声とスムーズに行き来できているか

とりあえず、ミックスボイスを体感してみたい

東本ボイストレーニングの東本祥平さん
プロ・アマ問わず4000人以上を指導した経験を持つ本格派ボイストレーナー。声の出し方や響かせ方を医学的な観点から分析し、論理的に説明してくれるので、発声のしくみを頭で理解してからやりたいという理論派さんにおすすめです。

こちらは、ご本人が実際に初めてミックスボイスが出せた方法を紹介されています。声門閉鎖を強めるNを使ったNay(ネイ)とNou(ノウ)という2つの発音で練習する方法です。こちらの動画では、地声をチェストボイス、裏声をヘッドボイスと表現しているので、表記も合わせます。

Nay(ネイ)N=声門閉鎖を強めやすい a=チェストボイスを呼び出しやすい y=ヘッドボイスを呼び出しやすい
Nou(ノウ)N=声門閉鎖を強めやすい o=ヘッドボイスを呼び出しやすい u=ヘッドボイスを呼び出しやすい

1.Nayで声帯を閉じたまま高音へ上がっていき、張り上げることなく引っくり返ることなく、一本の声で繋がっているという3つの条件をクリア
2.発音をNayからNouに変更。Nayで詰まっていた声を口腔の方へ広げ、歌声に近づけていく

声帯閉鎖をして喉をあけるという2段階をふむことで、ミックスボイスの感覚をつかむという手法です。口の中の形や当て方を言葉や実践、イラストで説明されているので、聴覚や視覚からもイメージしやすい内容になっています。

あらゆる手段で声帯閉鎖の感覚をつかむ

さきここVoiceのSAKIKOさん
テンポのよい口調が特徴のボイストレーナー。実際に感覚がつかめるまで、何通りものやり方・練習方法を提案してくれます。まずはやってみようという感覚派にぴったりです。

こちらでは、ミックスボイスに必要不可欠な声帯閉鎖(声門閉鎖)について、感覚をつかむための方法が次々と提示されていきます。これをやってみてダメらなこれ、それでも体感できなければ今度はこれという具合に。自分に合った練習方法を見つける手助けとなる内容です。

声は、声帯という2枚のヒダの間を空気が通って振動することによって音となり、声道を通ることによって言語になります。ただし、声帯も声道も見えないうえに触れないので、上記の説明はなんとなくそういうしくみなんだ程度の理解で大丈夫です。この振動によって出てくるブザーのような音がしっかり鳴らせるかが、歌の発声にはとても大切。ミックスボイスにはなくてはならないテクニックです。その基本的な練習方法が下記のように紹介されていました。

1.息を吐いてピタッと止めてみる→喉のあたりピクッとなる場所を声帯と確認
2.息に少し声を乗せてみてピタッと止め、そのまま息を最小限に抑えたまま「あ~」で発声→声帯を閉じたまま声を出している感覚をつかむ
3.上記2つで体感できない場合は以下の方法を試してみる
・声をとがらせてみる
・鼻からの息を最小限にしたハミングをする
・とんがった声でハミングする
・ハミングを短くきって出す

体感できたら母音に変えて、同じ感覚&同じ声質かをチェックしながら、コントロールできるまで練習あるのみです。

おまけ:長くてもいいから、ミックスボイスを出すための理論をしっかり学びたい。自分の現状を把握して適切なトレーニングを理解したい

今まで時間をかけてもうまくいかなかった、上のyoutube練習をためしてもいまいちピンとこなかった、そんな方には、イチさんのnoteが超絶おすすめです。これ以上ないくらいに綺麗にまとまっているので、ぜひしっかり読み込んでください。https://note.com/remakevoice1124/m/m88639c7f24e8

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ミックスボイスが綺麗な歌手

実際にほとんどの歌手が歌のどこかでミックスボイスを使っているといっても過言ではありません。ただパワフルなミックスボイスもあれば、やわらかなミックスボイスもあり、世に出ている曲を聞いても、なかなか判断できないものです。歌い手本人も自覚して出しているわけではなく、自然に身についていて、わざわざ意識していないという人のほうが多いでしょう。そこで、ここではミックスボイスが綺麗な歌手をご紹介したいと思います。

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男性歌手

裏声ベースのミックスボイスと地声ベースのミックスボイスを実際に聞いてもらえるよう、お二人の歌手をご紹介します。平井堅のLIFE is… ~another story~と、秦基博の鱗です。ミックスボイスを少しでも理解して練習するするための聞きどころもぜひ、参考にしてみてください。

LIFE is… ~another story~

平井堅
キャッチーなメロディとメッセージ性のある歌詞を、ソフトな声で歌い上げるシンガーソングライター。CDジャケットやPVでも独特の世界観を醸し出す個性派アーティストです。

基本的にはすべてをミックスボイスで歌われているのが特徴。地声と明確に感じるほど強い声を出す部分がないため、平井堅は裏声で歌っているという声もよく聞こえてきます。

それは、この方の声が裏声の成分を多く含んだ裏声ベースのミックスボイスだから。

これまでお話した通り、ミックスボイスは地声と裏声の割合によって、ハードにもソフトにも音色を変えられます。この曲には一部分に裏声が出てくるので、よく聞くとそれまでの声が裏声ではないことがわかります。

聞きどころは、ミックスボイスと裏声の使い分け。1番のサビに出てくる「何かを叫んでる」というフレーズです。裏声の部分を太字にすると「なにかをさけんでる」となります。ミックスボイスから裏声にいき、またもとの声に戻ってきているのがポイントです。2番のサビも同じフレーズに裏声が出てくるので聞き分けてみてください。聞き分けられたら真似をしてみる。これもミックスボイスのよい練習方法となります。


秦基博
繊細かつパワフルな歌声を自由自在に操り、情緒豊かに歌い上げるシンガーソングライター。弾き語りでのライブ活動を経てデビューされた実力派アーティストです。

サラッと聞いているとすべて地声に聞こえてくる歌声。当たり前ですが苦しそうでもなく、声が明確に変わることもないため、「自分にも歌えるかも」とチャレンジする男性も多い曲です。

この方のミックスボイスは、地声の成分が多めなパワフル系。

聞きどころは、Aメロとサビの声のバランスです。一般的に高音は普通に出すと息の多い裏声になる音域。そこを、地声よりのミックスボイスでパワフルに歌い上げています。そして本来、くっきりはっきり出てくる低音の地声音域で聞こえてくるのは、ほどよく息を混ぜたやさしく繊細な声です。地声と裏声の響きの割合に加え、息の量も変化させることで、生まれるさまざまな声。聞き分けて見ると、声がグラデーションになっているイメージがつかみやすいでしょう。

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女性歌手

女性歌手もお二人をご紹介します。こちらも裏声ベースと地声ベースのミックスボイスがわかりやすいよう2曲をご用意。 Uruのあなたがいることでと、MISIAの逢いたくていまです。

あなたがいることで

Uru
荒井由実やスキマスイッチ、スマップなど、新旧・男女問わず著名なアーティストのカバー曲を配信していたYoutubeをきっかけにスカウトされ、デビューにいたったシンガーソングライター。本名・年齢・お誕生日などプロフィールがすべて非公開とされています。

ふんわりと柔らかな息に包まれたような独特の声質と無機質なようでどこか激しさを感じさせる歌い方が印象的。曲によっては地声らしい声を聞けるものもありますが、今回の曲はほとんどがミックスボイスというイメージです。

高さ関係なく、裏声の成分多く含んだミックスボイス。

聞きどころは、ミックスボイスと1フレーズに一瞬だけでてくる裏声の違い。低音部分は息が多めの柔らかなミックスボイス、中音から高音は裏声の成分が多めの柔らかなミックスボイスのため、実際に裏声との違いがあるのかと思うところですが、しっかりあります。場所でいうと1番サビの「つづいたとしても」「ゆうきを」「こどくなよるでも」の3つのフレーズ。太字のところが裏声です。平井堅さんの曲でもお伝えした通り、ポイントは裏声の後で明確にもとの声に戻っていること。ここを曖昧にしないことで、裏声との差別化ができるので、しっかり聞いて、そして真似してみてください。

逢いたくていま

Misia
5オクターブの音域を持ち、時にやさしく時にパワフルに、歌い上げるR&Bシンガー。その圧倒的な歌唱力でデビュー以来25年以上、とどまることなく第一線で活躍されています。ゴスペルに出会ったことをきっかけに歌手を目指し、黒人ボイストレーナーに師事。オーディションへの応募やレコード会社の書類送付など、かつての王道の道筋でデビューを果たされました。

この1曲だけで何種類あるのだろうと思ってしまうほど、ひとつひとつの言葉を表現豊かに紡いでいく声は、どこまでも繊細で果てしなくパワフルです。

この曲では、裏声の成分を多く含んだ裏声ベースと地声の成分を多く含んだ地声ベースのミックスボイス、どちらも聞くことができます。音の高さを問わず、さまざまなミックスボイスが、まさにグラデーションのように使われている曲なのです。

聞きどころは、サビの地声成分を多く含んだパワフルなミックスボイス。そしてもうひとつは、息の流れから生まれる声の緩急です。鋭い声の合間にときおり柔らかな響きが聞こえてきます。この方の息の使い方は、量だけではなく波が感じられます。大きな波や小さな波、打ち寄せる波や引いていく波など、それによってほんの短いひと言にさえ短調にならず、豊かな表情をみせてくれるのです。地声と裏声、息の量そして息の波。ミックスボイスにいろんな要素が重なり合って生まれる歌声を聞いてみてください。

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